研究事業 Research

研究事業

主に、免疫を利用したがん治療にかかわる研究と開発を行っております。免疫の中核を担うのは、T細胞と抗体です。これらをいかに利用するかが、がん治療への免疫の利用のキーポイントとなります。

なお、私は「がん免疫」という言葉は基本的には使いません。「がん治療への免疫の利用」またはそれに類する表現を用います。がんは自己の細胞でありその細胞が持つ分子に対する反応は、感染免疫反応とは明確に異なります。この点は、一般にはあまり理解されておりませんし、また議論されることもありません。KTIC(Kyoto Tumor Immunotherapy Conference)を立ち上げたのは、このあたりを徹底的に議論し、またそのことによって免疫研究の中核を担う学者にがんへの免疫の利用に対する理解を深めてもらいたいという希望を持っているからです。ともかく、免疫をがん治療に利用することは可能であり、その最も効果的な方法をめざすのが当社の方針であります。

研究開発は、(1)T細胞の利用と、(2)モノクローナル抗体(mAb)の利用、の2方向をめざしております。実際にわれわれが実験を行うのは(2)についてであります。

(1) T細胞の利用

がん特異的キラーT細胞を患者から取り出して、これを増殖させた後に患者に戻せばがん治療に役立つという考え方があり、現にわが国ではこの方式による治療が行われております。しかし、現実にはほとんど効果がありません。効果が出ない理由はいろいろとありますが、一つには、T細胞というのは過剰に増殖させると機能が低下するからであると言われております。

私たちは、長年にわたってT前駆細胞の研究を行い、世界をリードしてきた実績があります。私は、新鮮なT細胞を大量に生み出すことができるT前駆細胞をがん治療に活かすアイデアを長年にわたって温めてきたのですが、実行に移すすべがありませんでした。当社でもこれを行う余力はありません。一方、理研では河本宏氏(2012年4月より京大教授)がかかわってT前駆細胞を生かす研究を始めると聞いております。T前駆細胞としては臍帯血や骨髄から得ることができますが、当社と理研とで特許出願中の造血前駆細胞(T前駆細胞としての活性を持つ)、すなわちiLS細胞を用いることも視野に入れられております。そうなれば、当社もこの仕事の一端を担うことになります。

(2) mAbを用いるがん治療の開発

mAbの作製は、(株)日本医化器械製作所と共同で行っております。現在、1つのがん抗原に対するmAbと血管の増殖に関与する分子に対するmAbが樹立されております。これらの抗体の検定は、(株)バイオベルデの協力を得て、ようやく開始できるところまで来ております。

mAbに関しては2つの問題があります。1つは、すでに多くのmAbがつくられて市場に出回っており、さらに1.000件を超すmAbが特許出願されているといいます。すなわち、われわれのものも、すでに新規性がなくなっている可能性も否定できません。あと一つの問題は、ほとんどの例でmAbは単独では抗がん作用が不十分だということであります。

これらを解決する一つの方法は、T細胞を動員するmAbをつくることです。これはすでにbispecific mAb(がんに対する抗体とT細胞に対する抗体を連結したもの)として考案され、臨床治験が行われているものもあります。単なるmAbよりは、bispecificにすることで有効性は格段に高くなるのであります。これは、私が長年にわたってT細胞の研究を行い、がんへの応用にも貢献したいと考えていたことが、mAbの側から実現可能になってきたことを意味します。このようにbispecific抗体は基本的には私のアイデアではないのですが、われわれも独自のbispecific抗体をめざすつもりです。

実際には、さらに高度な方法の開発も可能で、それを実行する希望は持っております。ただしそのためには高度の技術と資金が必要であり、新たな組織との連携など、それなりの準備を整えることが不可欠であります。